八尾さんは奈良在住の漆芸作家。輪島で漆芸を学んだ後、奈良の漆芸作家山本哲さんの下で螺鈿の技術を深めました。対象に線刻を入れてそこに金粉や金箔を埋め込む沈金を得意とし、近年はそこに螺鈿の技法を混ぜて作品づくりに取り組んでいます。
本作は、箸の持ちてのところに沈金で忍紋を施し、頭の部分には細かく刻んだ貝を張り合わせてアクセントとしています。沈金はとても時間がかかり、螺鈿も相当の神経が必要となるので、この作品をひとつ仕上げるのに優に3カ月はかかるということです。漆芸作品は高価すぎて近寄りがたいといわれますが、そうなるにはそれだけの理由があるということですね。ただ、反面、それが日常世界にふとあるとこよなく贅沢な雰囲気を醸し出してくれます。八尾さんの作品はそんな非日常と日常の架け橋の役を果たしてくれます。